統合失調症のケアマネジャー

人生の大半をメンタルヘルスに費やしてきた男性の経験談

カズオ・イシグロの世界

こんにちは。pepeneeです。皆さん、コロナ自粛疲れしていませんか?時々は公園などに外出してフィジカルディスタンスとマスクを守り、散歩などして、気分をリフレッシュしてくださいね。今日は文学作品、カズオ・イシグロの作品を紹介していきたいと思います。

 

①日本でもメジャーな『私を離さないで~never let me go~』

日本でも、ドラマにもなった『私を離さないで』は有名な作品です。ただ、カズオ・イシグロの作品世界は非常に繊細で、なおかつ切ない人の生きざまを描いています。この『わたしを離さないで』も世界観は現実にはあり得ない設定なのですが、その過酷な世界の中で、登場人物たちは健気に青春を駆け抜け、精一杯生き抜こうとします。そんな人の人生の儚さ、切なさが胸を打つ訳ですが逆にその救いの無さ、ハッピーエンドからは程遠い終焉が悲しすぎて辛い思いをしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、閲覧注意を喚起しながらも僕はこの『私を離さないで~never let me go~』をお勧めしたいと思います。この作品は原作本があり、さらに映画化されヒットしています。また、TBSでドラマ化されており人気を博したようです。

 

②変えられない現実世界。そこで生きようとする若き生命。

この物語でも設定はかなり厳しいものですが、僕らの住む現実世界も自分の思う様にいかない事は沢山ありますよね。日本の歪んだ社会制度を変えたいと思っていても、現実には選挙に行っても多数派である高齢者の方が票を入れて決まってしまうシルバー民主主義。少子高齢化社会保障費の増大。重い税金。そんな変えられない環境の中で、自分はどのように生きるのか。狂おしい程の残酷な運命に対して、抗う術もない主人公たちの心の葛藤と心の叫び、その環境の中で生まれる恋と愛と、またそれに対する略奪。物語世界の残酷さに加えて、一途な恋愛の気持ちさえ、三角関係の友人の中で踏みにじられてしまう青春。希望のない未来を主人公たち三人はどのように生き、もがくのか。見終わった後の救いようのない悲しさは、僕たちの心に突き刺さってきます。しかし、そんな厳しい環境の中でも、主人公たちは若さの火花を懸命に散らしながら精一杯生きようとします。その青春は生きる事自体を否定するものではなく、懸命に短い命を愛に生きようとする素直な情熱の発露のように感じました。ぜひ、気持ちが安定しているときに鑑賞してみてください。

 

③『日の名残り

カズオ・イシグロの作品では、代表作と言われている作品です。原作本から、アンソニー・ホプキンズ主演で映画化されています。有名な作品なのでご存じの方も多いかもしれませんね。舞台はイギリスの紳士の屋敷。主人公はその屋敷に仕える執事です。主人公は執事の仕事に誇りを持っており、主人に仕える事を喜びとしています。しかし、時代が動き、その歴史の中で、仕えているイギリス紳士の義理堅い行動がのちに大きな禍根を生むことになります。そのせいで、世界はそのイギリス紳士を糾弾し、その地位を追いやってしまいます。今までその紳士に仕えてきた主人公の執事は誇り高い自分の仕事をいっぺんに不名誉なものにされてしまいます。生真面目で不器用な主人公は恋も愛も捨て、執事という仕事一辺倒の自分の人生が不名誉なものになることに驚きます。一緒に働いていた女性との恋も、お互い恋心を抱きながら、不器用で自分の気持ちを上手に表せない事で、その恋も成就しません。それでも、主人公に残された道は、まったく新しい主人の執事をすること。人生という儚さとほろ苦さが良く描かれている作品です。人は、自分が行っている仕事は気高いと思わなければ乗り超えられない辛い時があるものです。しかし、その誇りはいとも簡単に時代とともに脆く崩れていく。自分が信じた道。その道を誠実に駆け抜ける不器用な命。しかし、評価されるどころか、非難されるようなことが起こりうる。仕事に人生をかけ、恋や愛はその手をすり抜け、人生とは一体何なのか。そんな世の中の虚しさ、悲しさを描いています。しかし、不器用な主人公は執事を続けることでしか、生きることが出来ない。物語のラスト、屋敷に迷い込んで入り込んだ鳩を、新しい主人が窓から解き放つシーンが印象的です。

 

④時代は変わる。

さて、ちょっと暗いハッピーエンドではないカズオ・イシグロの作品を二つご紹介してきました。この作品群から見えるのは、不条理な”世の中”というものが個人の幸福、自由をいかにがんじがらめにしてくるのかを描いています。どうしてもリアリズムを追求しようとするとアンハッピーエンドになりがちなのが良くわかります。しかし、『日の名残り』のように、時代に翻弄される人々を描くことで一定の人生経験を積んだ世代の共感は得られ、その結果カズオ・イシグロの描く世界観は支持を得ています。本来なら、この作品を紹介し、このブログの読者に鑑賞していただくことで終わりにするところですが、僕はあえてこの悲しい現実主義の作品をハッピーエンドに変える考察を付け加えていきたいと思います。それは、時代の変化が現在非常に目まぐるしく、このような個人の幸福、自由を犠牲にする現実世界は終わりを告げようとしていると思うからです。(『私を離さないで』は世界設定が完全にファンタジーですが)スマートフォンタブレット、インターネット、そしてもうすぐ訪れる5Gの世界で、個人の幸福と自由はさらに加速度的に追求できると思うからです。新型コロナの出現で、遅れていたITの活用は進み、パソコンを使ったテレワークは当たり前になりました。終身雇用の形態は完全に崩れ、もはや人生で一社だけに滅私奉公する慣習は今や存在しません。転職すれば、スキルさえあれば年収が上がるケースも少なくありません。時代はITを活かした個人型成果主義に移り変わろうとしています。そんな中、人生の幸福とは、人生の目的とは、という自分の軸を見つめなおすことが大切になってきました。また、人生を楽しむ事を大切にしようという風潮も高まっているように思えます。自分の価値観を明確にし、自分の心に素直になって仕事が出来、愛する人と大切な時間を過ごすことは、このカズオ・イシグロの作品が発表された時代に比べて、圧倒的に容易にできる時代になってきているのです。僕がこのカズオ・イシグロの世界をご紹介したのは、旧時代では、人生とはこういうものだった、というオールドタイプの人生をあえて知ってもらい、これからのテクノロジーを活かした自由で愛に溢れた人生をこのブログの読者には歩んでいってほしいという思いを込めています。また、オールドタイプに当てはまる年代の読者も、新しい事に挑戦して、楽しい人生を歩みなおしてほしいと思います。

 

まだまだ自粛は続きますが、こんな時こそ普段できなかった事に取り組んでみて、自らの可能性を楽しみながら切り開いていっていただきたいと思います。『私を離さないで~never let me go~』『日の名残り』名作ですので、ぜひ、一度ご覧になってください。

 

このブログでは、精神疾患等に罹った方が幸せに生きるヒントを書いています。これからもどうぞよろしくお願いします。